「極上の羊を狩って参ります」 儚い羊たちの祝宴/米澤穂信
今でも好きだが、一時期「イヤミス」「後味が悪い」の検索ワードを多用して次に読む本を決めていた時期がありました。たぶん大学入ってすぐぐらい。
そのときにやたら名前が挙がっていたのがこちらの作品。
米澤穂信と言えばアニメや実写映画にもなった「氷菓シリーズ」が有名かもしれないが、自分が初めて読んだ米澤作品はまさかの「小市民シリーズ」でした。しかもコミカライズから。
その後、「インシテミル」が映画化して同一作家と知ったときは驚いた。デスゲームと日常の謎の差よ。
長編よりも短篇集のほうが好き、かつ邪悪な雰囲気ということで好みドンピシャ。定期的に読み返しては気持ち悪い気分に浸る悪趣味さ。最高か。
【あらすじ】
名家のお嬢様の集う読書サークル『バベルの会』に所属する女たちの5つの不穏な事件。幻想と現実の区別のつかない儚い羊たちの聖域はこうして朽ちていった。
【感想】
5編の連作短篇集で、すべての話がフィニッシングストローク(最後の一撃)のオチ。
最後の一文がめちゃくちゃ効果的に効いている点で、「身内に不幸がありまして」「玉野五十鈴の誉れ」の2作品はかなりお気に入り。
「身内に不幸がありまして」
夏に行われるバベルの会の合宿に毎年参加することの出来ない女の話を、使用人の日記という体で描いた作品。呪われたように毎年起こる事件の真実が最後の一文で一気に明らかになる。
「玉野五十鈴の誉れ」
お嬢様の望むことを何でも叶える使用人の五十鈴。2人の幸せの日々は、叔父の起こした殺人によって崩壊していく。
どの作品にも共通しているが、一昔前のお嬢様と使用人の主観によるため文章はかなり古風。それが怪しいけれど耽美な雰囲気を醸し出していて一層引き込まれていく。
上で紹介した2作はかなり人気であり、五十鈴のラストは初読時にかなりゾクゾクした。
しかし、タイトルにある極上の羊については、最後の「儚い羊たちの晩餐」から書いたもの。バベルの会に入ることの出来なかった女の家に迎えられた料理人の話なのだが、ぶっちゃけ一番残酷。
誰も食べたことのない極上の料理を食べたいと言う父に、娘は「アミルスタン羊」を勧める。獲ることが難しいその羊は夏の蓼沼にあらわれるといい、料理人は羊を獲るために3ヶ月出かけていった。
これは作中でも言及されているが、スタンリイ・エリンの「特別料理」という作品にアミルスタン羊が幻の食材として登場している。
勘がいい人にはなんとなく分かりそうですが、まぁそういうことです。
元ネタである「特別料理」ももちろん読みました。一層「儚い羊たちの晩餐」が好きになるので機会があればこちらも是非読んでほしいです。
様々考えられる終わり方をしているのも好き。哀れな羊たちが再び集まってしまうのか果たして...。
かなり昔に読んだ作品も時間をあけてまた読むと違った気づきや感情と出会えるので好きな作品はやはり何度も読みたくなってしまいます。
みなさんのずっと読み続けている作品はなんですか?