「10人産んだら、1人殺せる」 殺人出産/村田沙耶香
ひとまず片っ端から好きな作家さんの作品を一つずつ紹介していこうという気概でやっております!これが途切れたときにさぼらないといいですね(他人事
芥川賞を受賞した「コンビニ人間」で知られる村田沙耶香さん。コンビニ人間の異様さに取り憑かれてあほみたいに読みまくった中で一番衝撃を受けたのがこちらの「殺人出産」。
常識が狂ってる頭のおかしい世界観ラブなのでよだれ出そうになるほど貪った。
【あらすじ】
現代においてセックスは愛情表現と快楽のための物になり、子を成すのは人工授精のみとなった。それに伴う極端な人口減少が起こったことで構築された合理的な新たなシステムが『10人産んだら1人殺してもいい』殺人出産制度であった。それを行う人を『産み人』として、殺される人は『死に人』として人々から崇められていた。
この制度に参加する主人公の姉のお腹には10人目の子供が。姉の殺したい相手とは。
【感想】
産み人になることを選んだ人、産み人に殺された人、家族が産み人の人など様々な立場からこの世界に生きる人たちを描いている。この世界の常識を狂っていると真っ向から立ち向かう人からしたら狂気でしかない世界。それでも受け入れられてしまったということは、どんなにおかしいことでも合理的であると言うことが証明され肌感で分かってしまうと意外と簡単に常識というものはかわっていってしまうのかもしれない。
自分がこの世界に生きていたとして、10人産んでまで殺したい人がいるかというとまぁまずいないよねそんな人。そんなことを考えながらの姉の結論には笑ってしまった。
案外そんなもんかもね。
4編の短篇集で1話ごとのボリュームはないですが、この世界に引き込まれて潰されて漉されて濃縮されてととにかく密度がエグい。
2話目の「トリプル」は、3人での男女交際が徐々に流行している世界の話。なんなら婚姻ですら認められている。
カップルに対しての嫌悪感と、自分は清潔なトリプルとして生きていくという二つの思いに狂いそうになる主人公の少女の気持ちが分からないはずなのにどこかで分かってしまいそうな自分もいる。
最後の「余命」はたったの4ページの掌編。科学技術の発展により死ぬことがなくなり寿命を自由に決めることが出来るようになった世界の話。薬一つでコロリ。
どの話もあり得ないと一蹴するには心許ない。数年後、十数年後、数十年後の世界にこうなってない保証もないし、なんならちょっとうらやましいと思ってしまう自分がいる。
あんまり人にお勧めできるタイプの本ではないが(そんなのばっか読んでるせいですが)、性と生と死をこんな角度から考えてみてもいいんじゃないかなと。