ひかげ読書

本と漫画と時々色々

「何もかも、本当に馬鹿みたいだ」 ボラード病/吉村萬壱

吉村萬壱作品に初めて触れたのは「臣女」だったかな。

本屋で平積みになっているのが気になって、事前知識無しに読んだらなかなかすごい作品でしたわ。よく分からなかったはずなのになぜか読むのをやめる気になれず続いて手に取ったのがこちらでした。

【あらすじ】

過去に災害に見舞われた街「海塚」は着々と蘇りつつあった。市民は心を一つにして市歌を歌い、清掃活動に汗を流し、そして今日も人が死ぬ。

 

【感想】

私的ディストピア小説の最高傑作。村田沙耶香とほぼ同時に読んでてもう自分死ぬんじゃないかと思ったぐらい心臓痛くなった。

 

とある女性の小学校時代の日記として話が進むため、文章は「でした。ました。」調で最初こそ違和感があったが、異様な世界とのマッチングによりどんどんそれが自然に感じてくる。

 

読んですぐに分かるが、この作品は3.11があったことから描かれている。震災後の閉鎖された世界で「我々は正常である」という思想に対して心根からそう思っているのか、それとも分かった上で諦めて生きているのかが分からない。同調という単語がこんなに怖い作品なかなか無いぞ。

特に印象に残っているのはクラスメイトの葬式のシーン。決定的にこの街の異常さを決定づけたがこの時点ではまだ何かも分からないまま話は進む。

 

最後の章では現在の主人公の独白だが、数ページのものなのにとにかく重い。母が異様に厳しかった理由、なぜあそこにいないといけなかったのか、そもそも海塚とはなんなのかなど明らかになる。

現実でも同調しておけば楽なことなんていっぱいあるし、同調圧力によってそうせざるを得ない場面なんてたくさんあると思う。ぜひ未来の世界がこうならないことを祈りたい。誰にも届かない最後の叫びがどうしようもなく悲しい。

 

鈍いものは生きていけない痛い世界の話。悲しいのか苦しいのか分からないが胸に嫌なもやもやを残して読了。定期的に読んで自分が病気であることを自覚したいと思う。

 

ちなみに「ボラード」とは 船と結ぶために港などに設置されている杭のことである。人と人との結びつきって大事ですよネ。